仮想メモリ 基礎

curl プロセスが触れるあらゆるポインタは仮想アドレスで、アクセスごとに物理アドレスへ翻訳される —— 秒間数十億回。5 セクションで全体像を組み立てる:なぜ存在するのか、ページテーブル、TLB、ページフォールト、クイックリファレンス。

01

なぜ仮想メモリが存在するのか

どのプロセスも私有の 64 ビットアドレス空間を見て、128 TB が使える。マシンに 128 TB の RAM はない。その錯覚が 3 つのものを買う。

なければ各プロセスは物理 RAM を直接アドレスし、最初に壊れるのは隔離だ。下でプロセス A の 8 ページはフレームに散らばり、 B のページは A が名前を付けられないフレームにあり、A の最後の 2 ページはどこにもマップされていない。スライダーで A のページを辿り、マップの端を越えてほしい:

A の仮想ページ 0

A に何が表現できないかに注目。B のフレームを名指しできる仮想アドレスは作れない。A のテーブルのどのエントリもそこを指さないからだ。隔離は検査ではなくマッピングの不在で、その強制はハードウェアがただでやる。

マップのない読みは大きな音で失敗する。そのアドレスを覆う領域がなく、プロセスは実行した命令で SIGSEGV を受け取る。大きな音は良いほうだ。静かなほうは実際に持つマッピングの中に落ち、ハードウェアに文句の付けようがなく、破壊は別の場所で出る。

2 つ目はアドレス空間の設計。1 つの物理空間を共有すれば、どのプログラムも他が欲しがらないアドレスを選ぶしかなく、どちらも 0x400000 を望む 2 つは同時に動けない。ここでは両方ともそこにリンクされている ——プログラム A と プログラム B。スライダーは B の置き場所を動かす:

プログラム B は物理フレーム 11

B がコンパイルされたアドレスは仮想なので、ローダはバイナリを書き換えず、ページテーブルを埋めて飛ぶだけだ。 ASLR がほぼ無料なのも、同じバイナリの 2 つのコピーが1 組の読み取り専用フレームを共有しながらどちらも 0x400000 を自分のものと思えるのも、これが理由だ。

3 つ目はオーバーコミット。プログラムは触るより遥かに多く予約する。 64 GB のマシンに 200 GB の JVM ヒープは普通だ。予約のうち触れた部分だけが物理フレームを消費する。スライダーを上げ、予約が最初の幅のままなのを見てほしい:

200 GB の予約のうち 0 GB に触れた

72 GB —— RAM とスワップの合計 —— を超えると何が起こるか。malloc は失敗していない。約束したのはアドレス空間だけだ。失敗は後から、カーネルが満たせないフォールトとして、しかも OOM killer が選んだプロセスに落ちる。vm.overcommit_memory=0 の代価だ。

どれも無料ではない。アクセスそのものは L1 から約 1 ns。翻訳のオーバーヘッドはページテーブルを歩くアクセスの割合ぶんで、1 回あたり約 100 サイクルだ。 1000 アクセスあたりのミス数を上げてほしい:

1000 アクセスあたり 0 ミス

オーバーヘッドが本来の仕事を追い越す速さに注目。 1000 回あたり 32 ミス —— 3.2%、大きなワーキングセットでは珍しくない —— で翻訳は当のアクセスと同じコストになる。この曲線が TLB の存在理由だ。ページテーブル自体はマップ量の約 0.2% を足す。請求書の小さい半分だ。

02

ページテーブル —— ハードウェアが読むもの

カーネルはプロセスごとに、仮想ページを物理フレームへ対応させるテーブルのツリーを持つ。翻訳が未キャッシュのアクセスのたびに CPU が歩く。

メモリはページ単位で管理される。一般的な CPU では 4 KB だ。翻訳はページ粒度なので下位 12 ビットはそのまま通り、上の4 つの 9 ビット欄がどのページかを選ぶ。 1 バイトずつ動かし、実際に動くものを見てほしい:

仮想アドレス +0 バイト

オフセットが動いてもフレームは変わらない。連続する 4096 個のアドレスが 1 つの翻訳を共有する。これが翻訳の割に合う理由だ —— 仕事はページごとに 1 回で、バイトごとではない。 4 KB 境界を越えれば PT インデックスが進み、フレームも変わる。

ではなぜツリーなのか。仮想ページごとにエントリを持つフラットな表は 236 エントリ × 8 バイトを要する。フラットな表と、同じ 4 MB をマップする4 段ツリーを並べて広げてほしい:

32 ビット仮想アドレス

48 ビットでフラットな表はプロセスごとに 512 GiB。4 GB をマップしようが 4 KB だろうが 512 GiB だ。問われうる全アドレスに枠が要るからだ。ツリーはマップのある場所にしかノードを作らない。ここでは 4 KB ページ 5 枚 —— PML4、PDPT、PD 各 1、PT 2 —— で足りる。

x86-64 は36 のインデックスビットを 4 つの 9 ビット欄として使う。恣意的ではない。29 × 8 バイトはちょうど 4096 で、どのテーブルも 1 ページになる。トラックを 1 目盛りずつ進めてほしい:

4 段中 0 段を解決

ロード数を見てほしい。4 回の依存したロード —— 次のアドレスは直前の段が返したエントリから出るので、メモリレベル並列性は効かない。Linux は Ice Lake で 57 ビット用の第 5 段を得たが、128 TB 超でのみ使い、 5 回目の依存ロードを払う。

各エントリは 8 バイト。40 ビットがフレーム番号、残りが権限と状態だ。許可するビットと拒否するビットはウォークと並行に検査される。アクセスを切り替え、このエントリをフォールトへ追い込んでほしい:

読み

フォールトのエラーコードは「何が悪かったか」ではなく「何を試みたか」だ。ビット 0 はpresent、ビット 1 は書き込み、ビット 2 はユーザモード —— 0x7。カーネルはそこからバグかコピーオンライトかを決める。Accessed と Dirty は CPU が立て、ページ回収が読む。

ヒュージページは PS ビットが立ったエントリで、 CPU に「もう最終ページだ」と告げる。そのビットを 1 段ずつ上に設定し、ウォークが止まる段が上がるのを見てほしい:

4 KB ページ —— 短絡なし

2 つが同時に良くなる。依存ロードが 1 回減り、TLB エントリ 1 つが 4 KB でなく 2 MB を覆う。請求書は最後の読み出しだ。 100 KB を 2 MB で裏打ちすれば 1.9 MB が無駄になり、部分コピーオンライトができないので fork() 後の 1 バイトで 2 MB 全体がコピーされる。

どのツリーを歩くかを決めるレジスタは 1 つ —— x86 は CR3、ARM64 は TTBR0_EL1。最上位テーブルの物理アドレスを持つので、変えれば全翻訳が変わる。CPU を持つプロセスを動かし、同じ仮想アドレスが別の場所に落ちるのを見てほしい:

CR3 はプロセス A のツリーを指す

CR3 の下のツリーの差し替えが、コンテキストスイッチがメモリにすることであり、Meltdown 以後の KPTI ではカーネルに入るたびに起きることでもある。KPTI はツリーを 2 本持たせ、システムコールごとに切り替える。2018 年の性能低下の少なくない部分がここだ。

03

TLB —— 翻訳が速い理由

これがなければ 1 回のメモリアクセスは 5 回になる。データに 1 回、ウォークに 4 回。TLB がこの仕組みを成り立たせている。

Translation Lookaside Buffer は最近のページ→フレーム対応を保持し、 L1 参照と並行に引かれる。だからヒットは実質ただで、ミスはウォークを払って結果を登録する。 8 エントリの TLB に 16 回のアクセスを流してほしい:

16 回中 0 回目のアクセス

どのミスが避けられないかに注目。初回は必ずミスする —— 先に登録しようがない —— が、終盤のページ 17 は違う。ページ 70 に押し出されるまで常駐していた。8 スロットではこのループの 9 ページを抱えきれない。強制ミスは減るが容量ミスは減らず、スループットを決めるのは後者だ。

実際のハードウェアは階層で答える。小さな L1 dTLB、その後ろに大きな L2、それでも外れて初めてハードウェアのページウォーカが走り、ウォーカ自身もデータキャッシュ越しに読む。スライダーを下の段へ:

L1 dTLB

これは各段についての Intel Skylake〜Golden Cove の数字だ。4 KB ページで L1 dTLB 約 64、L2 約 1500 エントリ。テーブルがキャッシュにあるウォークで約 100 サイクル、なければ数百。 Apple M シリーズは L2 が約 3000 ある。

エントリ数 × ページサイズがカバー範囲 —— TLB が一度に記述できる量だ。ワーキングセットをカバー線の外へ押すと、ミス率は崖を落ちる:

ワーキングセット 2.2 MB

ワーキングセットがカバー範囲を超えた瞬間、当たる確率はカバー÷ワーキングセットしかない。曲線は 1 − cov/ws で、2 倍のとき既に 50%。 1500 × 4 KB は 6 MB 弱。同じチップの L2 データキャッシュより小さい。キャッシュに収まっていても時間の 3 分の 1 をページテーブル歩きに使いうる。

ヒュージページはカバー範囲の項を直接攻める。エントリ数は変わらず、1 つが記述する量だけが変わる。同じ崖の下でページサイズを切り替えてほしい:

ワーキングセット 431 MB · 4 KB

同じ 1500 エントリがカバー線をおよそ 6 MB、3 GB、 1.5 TB に置く。Redis、PostgreSQL の shared buffers、JVM ヒープ、 HPC 配列が求めるのは速いメモリではなく、崖を自分の外へ動かすことだ。perf stat -e dTLB-load-misses,dTLB-loads で測れる。キャッシュに収まるはずの負荷で約 1% を超えたら、その崖の上にいる。

TLB が持つのはある 1 本のツリーの翻訳なので、翻訳を無効にする操作は写しも無効にしなければならない —— 1 つなら INVLPG、全部なら CR3 の再ロード。 ASID タグ以前は切り替えのたびに全部捨てていた。スイッチ回数を動かし、タグなしとタグ付きを比べてほしい:

0 回のコンテキストスイッチ

アドレス空間識別子(Intel の PCID、2010 年の Westmere)があると、生き残る各エントリはどのツリー由来かのタグを持ち、スイッチは相手のエントリを使わないだけでよい。残るのは容量圧力だ。2010 年代にスイッチが安くなった最大の要因であり、 PCID を持たない CPU で KPTI が痛かった理由でもある。

04

ページフォールト —— Linux が与えた仕事

ページフォールトは、CPU がテーブルにない翻訳を求めたときに起こる。 Linux はこれをエラー経路ではなくフックとして扱う。

present ビットの欠落や権限違反で CPU はトラップする。カーネルは CR2 からフォールトしたアドレスを読み、仮想メモリ領域の一覧を引き、直して命令をやり直すか、あきらめる。フォールトの種類を切り替え、コストを見てほしい:

マイナー

3 つの結末は 5 万倍違う。マイナーフォールトはストレージに触れず、フレームを見つけるかゼロ埋めして戻る。数千サイクルだ。メジャーフォールトは読むので、コストはデバイスのものになる。不正なものは直らない。領域がなく、プロセスは SIGSEGV で終わる。

デマンドページングはこの上に建つ。1 GB の malloc は範囲を許可済みと記して返り、触れるまで何も裏打ちされない。割り当てを歩き、いま触れているページの後ろで常駐セットが 1 フォールトずつ育つのを見てほしい:

1 GB のうち 0 MB に触れた

メガバイトではなくフォールト数に注目。1 MB あたり 256 回、 4 KB ページ 1 枚に 1 回だ。1 GB を確保して即埋めるサービスは約 262,000 回カーネルに入る。アロケータがアリーナを再利用し、MAP_POPULATE があり、VSZ でなく RSS を見る理由がこれだ。

mmap は同じ仕組みをファイルに向けたもの。マッピングは空で始まり、各ページの最初の読みがストレージまでフォールトし、それ以降はふつうのメモリだ。8 ページのファイルへの 12 回の読み、最後の 4 回は既読ページの再訪を進めてほしい:

ページ 0 を読む

I/O をしているのが初回タッチなので、コストはコードがそう言う場所にない。read() はなく、ときどき 78 µs かかる参照があるだけだ。mmap は熱いファイルへの反復ランダムアクセスに優れ、1 回きりの走査には向かない。そこは先読み付き read() が勝つ。

fork() はページテーブルをコピーし、ページはコピーしない。全フレームが両者で読み取り専用になり、参照カウントが上がる。書き込み回数を動かし、共有フレームが 1 つずつ私有のコピーへ割れるのを見てほしい:

fork() 後に 0 ページ書き込み

コストは書かれたページだけで、共有のままはただだ。数 GB の fork が一瞬で終わる理由だ。鏡像が失敗モードで、子の生存中にヒープ全体を書く親は全体を複製する。コピーは書き込みフォールトで起こるので、メモリはそのときコミットされる。fork は戻った後で OOM を起こせる。

フレームが尽きるとカーネルは回収する。最も冷たいページを選び、スワップへ書き、エントリを not-present と記し、フレームを解放する。ワーキングセットを RAM より先へ引き、平均アクセスコストの動きを見てほしい:

8 GB の RAM に対しワーキングセット 4 GB

絵ではなく倍率を見てほしい。3 回に 1 回がスワップに落ちても 3 分の 1 ではなく 400 倍遅くなる。80 ns と 100 µs だからだ。スワップが安全弁である理由、症状が数秒の無応答である理由がこれだ。

スワップの端を越えると、カーネルはページでなくプロセスを選び始める。 OOM killer は使用量と oom_score_adj で採点し、伝えておかないかぎりログ転送ではなくデータベースを選ぶ。

05

クイックリファレンス

そらで答えたい 3 つの問いと、5 つの危険信号。

1 回のメモリアクセスはいくらか?

どこで答えが見つかるかで決まり、幅は 6 桁ある。下のどの段も 1 回のアクセスで、スライダーが支払っている段を歩く:

7 通り中 1 番目

覚える価値があるのは4 段目から 5 段目への跳びだ。 TLB ミスはナノ秒、フォールトはマイクロ秒。上はページサイズで調整するハードウェアの問題、下はメモリ予算で調整する I/O の問題になる。

mmap は何をするのか?

ファイルまたは匿名のゼロメモリに裏打ちされた仮想メモリ領域を作り、範囲を not-present と記す。各ページの初回アクセスがフォールトし、データをフレームに読んで翻訳をつなぐ。大きなファイル、共有ライブラリ、共有メモリ、大きな malloc に使う。

ヒュージページはいつ効き、いつ害か?

ボトルネックが帯域でなく TLB のカバー範囲のとき効く。小さな割り当てでは害になる。理由はスライダーが見せる ——どの要求も 2 MB 未満なら 1 枚ぶん払い、残りは無駄になる:

割り当て 4 KB

その無駄だけではない。fork が多ければ 1 バイトの書き込みが 2 MB をコピーする。

  • 触らない巨大な予約。RAM でなく TLB 圧力を使う。
  • 小領域の mmap/munmap の繰り返し。毎回システムコールとページテーブル編集と shootdown。
  • 広い範囲への mlock。秘密のためで、速度のためではない。
  • 大量書き込み直後の fork()。書かれたページは次の書き込みで起こるコピーの予約分だ。
  • vm.overcommit_memory の放置。割り当ての失敗を後の OOM kill に変える。